イヴァン・ツァンカル(1876-1918)
スロヴェニア近代文学の父とも言うべき国民的作家。
ヨーロッパの弱小民族の一員として、また貧しい仕立て職人の家で十二人きょうだいのひとりとして生まれたという出自のため、幼時より人間社会の不平等や不正に目を開かれることになった。
スロヴェニアで過ごした高等学校時代から執筆を始めるが、大学進学を機に大都市ウィーンに移り住み、当時のヨーロッパの最新の思想や文藝に触れることによって、従来のスロヴェニア地方文学の殻を破る数々の本格的近代文学作品を生み出していった。
執筆と政治活動にのめり込みながらも終生社会的弱者の側に身を置き、ウィーンの労働者街や故郷スロヴェニアの居酒屋の片隅に住みついて、社会の下層に生きる人々の苦しみを親しく観察し続けた。社会的テーマを取り上げた数々の小説や戯曲は仮借ない自然主義的筆致によって社会や人間の歪んだ現実を描き出すが、ツァンカルの真の関心は外界の現実よりも人間の内的世界にあり、外的現実の描写を通して人間の内面や抽象的理念を描き出す象徴主義的作風が確立されることになった。
佐々木とも子
1958年福岡県生まれ。1980年福岡女子大学文学部英文学科卒業。1982年九州大学文学部独文学科修士課程修了。1985年九州大学文学部独文学科博士後期課程中退。翻訳家。主な訳書『地球大図鑑』(共訳)、『人類大図鑑』(共訳)(ネコパブリッシング)、『イヴァン・ツァンカル作品選』(共訳)(成文社)その他。
イヴァン・ゴドレール
1962年リュブリャナ(スロヴェニア)生まれ。1987年リュブリャナ大学機械工学科卒業。1988年来日、1995年九州工業大学博士(工学)。2004年北九州市立大学国際環境工学部教授。訳書『イヴァン・ツァンカル作品選』(共訳)(成文社)。
鈴木啓世
1959年香川県生まれ。1983年多摩美術大学絵画科油画専攻卒業。1984年リュブリャナ大学大学院美術科修了。画家。森のコンサート(仲南町)1999年から舞台美術を担当。画・装幀『イヴァン・ツァンカル作品選』(成文社)。