はじめに──混迷の時代と「本当に美しい人」の探求
『白痴』とその時代
映画《白痴》
登場人物と主題──ボルトコ監督の《白痴》をとおして
序章 「謎」の主人公──方法としての文学と映画
一、長編小説『白痴』の構想
絵画鑑賞と日本庭園の訪問
死刑の批判とユゴーの『死刑囚最後の日』
ウメツキー事件と『レ・ミゼラブル』
ルナンの『イエス伝』
イエスとその時代
『白痴』という題名と「人間の謎」
二、映画《白痴》の構造と特徴
「戦犯」とされた若者の帰還
陰謀と悲劇
シナリオの重要性
さまざまな〈三角形の関係〉
《羅生門》の方法
黒澤明のドストエフスキー理解
本書の構成
第一章 「ナポレオン風顎ひげ」の若者──ムィシキンとガヴリーラ
一、外国帰りの若者
エパンチン将軍とその秘書
『知恵の悲しみ』のテーマ
二、「仮面」のテーマ
二つの家族
上司の娘への野心
《悪い奴ほどよく眠る》
三、「神様の遣い」のような若者
能書の能力とロバの話
「幸福になる方法」とマリーの話
美しさの謎
二人の遺産相続人
四、「謎の下宿人」
「虚栄心から出た愛」
下宿屋という職業
「商品」としてのナスターシヤ
五、「非凡人」への憧れ
平手打ち事件
ナポレオン三世の経済政策
フランスのメロドラマの批判
第二章 ロシアの「椿姫」──ナスターシヤとトーツキー
一、『白痴』と『椿姫』
「名の日」の夜会
長編小説『椿姫』とオペラ『椿姫』
トーツキーの『椿姫』理解
「医師」としてのムィシキン
《酔いどれ天使》と《静かなる決闘》
二、黒澤映画における『椿姫』のテーマ
壊された花瓶
死刑囚の目
《赤ひげ》
「生と死に対する敬意」
三、ナスターシヤの「新しい」解釈
「冷静な」トーツキー
ナスターシヤと鞭身派
体罰の問題
「領主夫人」なみの扱い
四、「報復」の衝動
「病的な発作」
「所有の欲望」
「白い手」の紳士
「本当の人間」
第三章 ロシアの「イアーゴー」──レーベジェフとロゴージン
一、噂とスキャンダルの手法
空白の半年とさまざまな噂
ロゴージンの悲劇
レーベジェフとその甥
ロシアのニヒリストたち
《野良犬》と《天国と地獄》
二、「混乱した社会」と「力の権利」
ゴシップ記事
「私生児」というテーマ
権利と良心
中傷への抗議
三、映画《醜聞(スキャンダル)》
「ゴシップ記事」と裁判
蛭田の娘とヴェーラ
「イエロー・ジャーナリズム」と現代
四、「大地主義」の理念とロゴージン
ロゴージンの「新しい」解釈
歴史書を読むロゴージン
『けちな騎士』
殺人者と酔っぱらいの話
乳飲み子を抱えた百姓女
迷える「闘士」
《七人の侍》
菊千代とロゴージン
第四章 「貧しき騎士」の謎──アグラーヤとラドームスキー
一、『貧しき騎士』とムィシキン
物語の展開と「語り手」の問題
謎の「貧しき騎士」
『ドン・キホーテ』と『貧しき騎士』
『貧しき騎士』と『貧しき人々』
二、アグラーヤの花婿候補
ニヒリストと「美」の否定
エヴゲーニーと言う名の若者
ナスターシヤの告発
ラドームスキーの苦悩
「公金横領」と伯父の自殺
情念の引力
三、決闘とその考察
「狂人」と「心神耗弱」
「復讐」としての「決闘」
復讐の情念と「良心」の問題
「良心に従った」殺人
四、二つのムィシキン像
「大事な知恵」の持ち主
「壜のなかにいれられて栓をされた」娘
《わが青春に悔なし》
日露の近代化と検閲の問題
キリストと「光の天使」
第五章 「死刑を宣告された者」──イッポリートとスペシネフ
一、「思想上の対立者」
イッポリートという若者
一杯のお茶
イッポリートとその家族
《どん底》と《どですかでん》
二、「殺人」の「使嗾者」
「力の権利」と思想の宣伝
「美」と「キリスト教」の問題
S氏の話とスペシネフ
スペシネフの生死観と絵画《キリストの屍》
三、《キリストの屍》と「最後の信念」
「弁明」と題された手記
メイエルの壁と独房の壁
《キリストの屍》と「自然の法則」
マルサスの『人口論』と「生存闘争」
無差別殺人の考察
鍵としてのイッポリート
「最後の信念」
四、さまざまな画策
レーベジェフの企み
ガヴリーラの新たな野望
イッポリートの憎悪
第六章 ロシアの「キリスト公爵」──悲劇としての『白痴』
一、花婿候補としてのムィシキン
悲劇の予感
変わるものとしての人間
エパンチン夫人の「庇護者」
二、影の主人公・パヴリーシチェフ
「恩人」の改宗
「鞭身派」と「無神論者」
切腹とロシアの宗教精神
「ロシアの理念」
三、悲劇の誕生
花瓶の落下と癲癇の発作
「復讐の恐るべき快楽」
所有の欲望
「椿姫」という表現
噂とラドームスキー
新たな陰謀
四、十字架というシンボル
悲劇の「新しい」解釈
《キリストの屍》と師ゾシマの死臭
マルグリットの屍
「十字架」の交換と裁判
ロゴージンの復活
「謎解き」という方法
『白痴』の構造とその「隠蔽」
終章 ムィシキンの理念の継承──黒澤映画における『白痴』のテーマ
一、「記憶」の力
綾子という娘
「自己」と「他者」の繋がり
イッポリートの可能性と《生きる》
《デルス・ウザーラ》
「自然界の調和」と「調和の思想」
二、文明の危機とその克服
シンボルとしての「沖縄の石」
露土戦争とドストエフスキー
「第五福竜丸」事件と《ゴジラ》
《生きものの記録》
「世界滅亡の悪夢」と核兵器
三、現実の直視と普遍性への視野
《夢》と「赤富士」の悪夢
《八月の狂詩曲(ラプソディー)》
『地下室の手記』と黒澤明
哲学者ムィシキン
注
あとがき
付録
『白痴』簡易年表
黒澤明簡易年表
《白痴》の登場人物と配役一覧
人名・作品名索引
高橋 誠一郎(たかはし・せいいちろう)
1949年福島県二本松市に生まれる。東海大学大学院文学研究科(文明研究専攻)修士課程修了。現在、東海大学外国語教育センター教授。
日本比較文学会、日本ロシア文学会、ドストエーフスキイの会、比較文明学会、比較思想学会、日本ペンクラブなどの会員。
著書と編著(ドストエフスキー関係)
『ロシアの近代化と若きドストエフスキー──「祖国戦争」からクリミア戦争へ』(成文社、2007年)
『ドストエフスキイ「地下室の手記」を読む』(リチャード・ピース著、池田和彦訳、高橋誠一郎編、のべる出版企画、2006年)
『欧化と国粋──日露の「文明開化」とドストエフスキー』(刀水書房、2002年)
『「罪と罰」を読む(新版)──〈知〉の危機とドストエフスキー』(刀水書房、2000年)
著書(司馬遼太郎関係)
『司馬遼太郎とロシア』(東洋書店、ユーラシア・ブックレット、2010年)
『「竜馬」という日本人──司馬遼太郎が描いたこと』(人文書館、2009年)
『司馬遼太郎と時代小説──「風の武士」「梟の城」「国盗り物語」「功名が辻」を読み解く』(のべる出版企画、2006年)
『司馬遼太郎の平和観──「坂の上の雲」を読み直す』(東海教育研究所、2005年)
『この国のあした──司馬遼太郎の戦争観』(のべる出版企画、2002年)